会社法576条1項6号では、合同会社(持分会社)の定款には、「社員の出資の目的(略)及びその価額又は評価の標準」を記載しなければならないとされております。
これは、いわゆる、定款の絶対的記載事項と呼ばれるものです。
そうすると、合同会社の定款には、必ず、社員全員の出資の目的及びその価額が記載されているということになりそうです。
しかし、たとえば、合同会社が存続会社となり吸収合併するようなケースで、消滅会社の株主等が、当該合同会社の社員となる場合には、「当該社員の氏名又は名称及び住所並びに出資の価額」を合併契約に定めることとされており、合併の効力発生日に、この定めに従い、定款を変更したものとみなされることになります。
この規定からすると、合併により社員となった場合には出資の目的は規定されないことになります(もっとも、通常の出資の場合でも、金銭の出資であればその金額を記載すればよいとされており(注1)、それと同様の記載になるので、事実上は問題がないといえます。)。
それに、もちろん、合併の伴い社員になりますから、出資の目的は記載しようがないともいえるかもしれません。合併に伴い、定款に記載された出資の価額に従い計算される持分を有する社員となるのであり、出資すべき目的物があるわけではないからです。
そもそも、出資の目的を記載する理由は何でしょう。おそらく、当該社員が出資すべき義務を負う客体を明らかにするものだと思います。そうすると、合併に伴い社員となる場合は、社員となるために出資の義務を負うわけではないので、その目的を記載する必要はありませんし、記載することはできないということなのでしょう。
そう考えると、出資の目的は、その義務が果たされてしまうと、その目的物を出資したという過去の事実の記載となり、それ以上の意味を持たないものなのかもしれません。出資義務が履行されたあとにおもに意味を持つのは、目的の方ではなく、定款に記載された出資の価額の方なのだと思われます。
なお、目的は絶対的記載事項なのに、その記載がなくてもよいのか、という点は疑問を感じますが、会社法576条1項6号は、第1章「設立」のところの規定なので、設立後には、必ず記載をしなければならない事項ではないということなのでしょうか。ただ、出資済みの場合には法的な意味を持たないとはいえ、過去の事実であり、その記載を削除することができるのかどうかはちょっと検討する余地があるのかもしれません(注2)。
株式会社の定款の絶対的記載事項だとされている発起人についての記載(会社法27条5号)にも似たような論点があったように思います(注3)。
今回も明確の結論をだすことができず、私の迷いにお付き合いいただくことになってしまいました。こういう、疑問を行ったり来たりして考えることも「耕せども尽きず」だと思い、お許しいただければと存じます。
注1)神田秀樹編『会社法コンメンタール14 持分会社【1】』(商事法務、2018)〔大杉謙一〕44頁
注2)ちなみに、合名会社や合資会社であれば、その目的物を出資の払戻しすることができますが、その場合にはその定款の規定を削除しない限り、あらためて出資する義務が生ずることになります。
注3)設立後に、定款から発起人の記載(会社設立事項の記載)を削除できるかどうかという論点について、相澤哲「会社登記実務から見た定款認証の諸問題」(公証(日本公証人連合会機関誌)151号18頁以下)
立花宏 司法書士・行政書士事務所
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