申し訳ありません。今回も合同会社の話題から離れてしまいます。
もはや、合同会社の計算を中心に、日頃、考えたことを書き連ねていくコーナーに軌道修正させていただこうと思います。なにとぞ、ご容赦ください。
定款に次のような定めがある取締役2名の株式会社であることを前提とします。取締役は、代表取締役A、取締役Bです。
【定款規定】
第〇条 当会社に取締役が2名以上ある場合は、株主総会の決議により代表取締役1名を置く。
この会社において、代表取締役Aが死亡した場合、この定款の規定により、取締役Bは代表取締役になるでしょうか。
まず、これを考える前提として、前記の定款規定の代表取締役の選定方法が取締役の互選だった場合は、Bは代表取締役になります。この定款の定めは、取締役が2名の場合には代表取締役を互選により定めるが、取締役が1名の場合にはその者が当然に代表取締役になる旨の趣旨だと解されるので、Bの代表権が法律上当然に回復するわけではありませんが、この定款規定の定めに従って、Bが代表取締役となるからです(注1)。
同様の趣旨からいえば、前記の定款規定のとおり、選定方法が株主総会であったとしても、同様に考えることができるのではないかとも思えます。
しかし、登記実務では、そう扱われているとは限らないようです。司法書士の方であれば御覧になれると思いますが、会員向け雑誌「月報司法書士」の4月号の付箋のコーナーでは、肯定する見解で記述されていたのですが、5月号で訂正記事が掲載され、Bは代表取締役とはならないという見解に修正されていました。
おそらく、「登記研究」の過去の記事に否定する見解があったこともあり、修正したのだろうと思います(注2)。天下の神﨑満治郎先生のご見解ですから、連合会もその見解を採用することはもっともなことなのだのだろうと思います。
否定する見解の理由の趣旨としては、Bは、株主総会(登記研究の記事は有限会社がテーマなので、原文は社員総会)で代表権が制限されたので、この制限がAの死亡によって当然に解除されると解釈することはできないというものです。
ただ、個人的には少し疑問に思っています。というのは、前記のとおり、Bの代表権は法律上当然に回復するわけではなく、「取締役が1名の場合はその取締役が代表取締役になる」という定款規定(の趣旨)に従って代表取締役になるのであり、Bが株主総会により代表権が制限された取締役であったとしても、結論を変える必要はないのではないかと思っております。
私自身は、関与している会社様には、前記の定款規定をいれていだたいていることが少なくありません。たとえば、Aのみが株主で、Bはその配偶者だったような場合に、Aが死亡して相続が発生し、Aの株式の遺産分割に時間がかかる場合、定款規定に従い、Bが代表取締役とならないと、代表取締役不在の期間が長くなってしまう可能性があるため、それを避ける意図もありました。
登記実務がBが代表取締役になることを否定する見解なのであれば、この定款規定の採用も再考しなければならないと思っています。
たとえば、「当会社に取締役が2名以上ある場合は、株主総会の決議により代表取締役1名を置く。取締役が1名の場合は、当該取締役を代表取締役とする。」という規定の仕方でもBは代表取締役とならないのでしょうか。結局、趣旨としては、前記の定款規定と同じですから、登記実務の見解によれば、否定されることになるのか・・・。
悩ましいです。
注1)松井信憲『商業登記ハンドブック第4版』(商事法務)
注2)神﨑満治郎「先例・実例 有限会社法の登記と実務(4)」(登記研究632号191頁)
立花宏 司法書士・行政書士事務所
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