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兼任禁止規定

2025年05月11日 14:34

 株式会社の監査役の地位にある者が、同社の株主総会において取締役に選任された場合はどのような状態になるのでしょうか。というのは、会社法335条2項により、監査役は、その会社の取締役を兼ねることができない(以下、「兼任禁止規定」という。)と規定されていることから問題となります。

 もし、この兼任禁止規定が監査役の欠格事由と定めたものだとすれば、この監査役選任に関する株主総会決議は法令の規定に違反し、無効ということになるでしょう。

 これに関連して、商業登記ハンドブック第5版457頁では、「監査役が会社法335条2項の兼任禁止規定に違反し、同項の地位に就任することを承諾したときは、従前の監査役の地位を辞任する意思を表示したものと解されている」と記述しています。

 つまり、株主総会決議は有効であり、兼任禁止規定は、監査役の欠格事由を定めた規定ではないということになります。

 そして、監査役に選任された者が就任承諾した場合は、その意思には就任承諾の意思のほか、監査役を辞任する意思も含まれているということのようです。

 そうすると、兼任禁止規定は、監査役に、取締役を兼任してはならないという義務を課しているけれど、兼任してしまった場合は、監査役の任務懈怠責任を負うにすぎず、当然に取締役の資格を喪失するわけではないということになるのかもしれません。

 では、就任承諾の意思表示は、当然に辞任の意思を含むということになるのでしょうか。この点はあくまでも解釈(事実認定の)問題であり、異なる解釈(事実認定)もあり得るのではないかと思っています。というのは、同じ会社の取締役に選任された場合は、なんとなく、理解しやすいのですが、たとえば、子会社の取締役に就任承諾の意思表示をした場合はどうでしょう。この場合も兼任禁止規定に違反することになりますが、就任承諾の意思表示は子会社に対して行います。辞任の意思表示は子会社ではなく親会社にすべきものですので、この場合は、子会社に対する就任承諾の意思表示を、親会社に対する監査役辞任の意思表示をみなすことには無理があるように感じます。

 同じ会社の取締役に選任されたようなケースであっても、実務上は、監査役としての辞任届は準備するのが無難なのだろうと思いますし、通常はそうしていることがほとんどだろうと思います。

 参考までに、これに関連する判例(最判平成元年9月19日)では、「選任された者が就任を承諾したときは、兼任が禁止される従前の地位を辞任したものと解すべきであるが、仮に就任を承諾した者が事実上従前の地位を辞さなかったとしても、そのことは任務懈怠の責任の原因となり得るのは格別、総会の選任決議の効力に影響を及ぼすものではないというべき」旨の趣旨を述べています。 

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