会社法613条に、「持分会社がその商号中に退社した社員の氏若しくは氏名又は名称を用いているときは、当該退社した社員は、当該持分会社に対し、その氏若しくは氏名又は名称の使用をやめることを請求することができる」という規定があります。
個人的には、どうして株式会社にはこうした規定はないのに、持分会社にはあるのだろうと疑問に思っています。
この条文の趣旨は、「会社の商号中に退社した社員の氏等が使用されている場合に商号を変更しないで放任しておくときは、退社した社員には不作為による自称行為があるとして、自称社員の責任(略)を負わされるおそれがあるため」や、「退社した社員が自己の氏等を使用して同様の事業を営もうとする場合に、類似の商号として逆に会社から使用の差し止めを受ける(略)おそれがあること」(注)が理由だとする見解があるようです。
しかし、これは株式会社でも同じなのではないかと思います。
ただ、この規定が設けられた沿革をみると、なんとなく、これが関係しているのかというような気がしました。
明治23年商法では、合名会社の商号には、総社員又はその1人もしくは数人の氏を用いることを要するとし(明治23年商法75条)、社員の退社した後も従前の商号を続用することは可能だけれど、退社員の氏を商号の中に続用しようとするときはその承諾を受けることを要するとしていました(同法76条)。
そして、明治32年商法になると、商号中に社員の氏等を用いる制約はなくなりましたが、会社が商号中に退社員の氏名を続用する場合には、その使用の差止請求を認める規定になりました。
積極的に退社員の承諾を受けることを要するとするよりも、退社員からその氏等の使用の差し止めを請求することを得るとし、もしこれを請求しないときは、その使用を承諾したものと認めるのが便宜であるという理由で規定され(『商法修正案理由書』(博文館、明治31年))、それが会社法まで引き継がれているようです。
もしかしたら、明治23年商業で設立した合名会社が現在まで退社員の氏等を使用している可能性もあり、その退社員(の相続人)からの商号変更の請求を認める必要があるため、まだ、規定されたままになっているのではないか、と想像してしまいました(あくまでも個人の感想です)。
注)神田秀樹編『会社法コンメンタール14 持分会社【1】』(商事法務)277頁
参考文献:上柳克郎ほか『新版注釈会社法(1)会社総則、合名会社、合資会社』(有斐閣)349頁
立花宏 司法書士・行政書士事務所
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