ABCの3名がそれぞれ100を出資して設立した合同会社であることを前提とします。この会社の定款には、定款変更について、社員の過半数の賛成で変更を可能とする別段の定めが設けられているものとします。
この会社において、AB2名の賛成で定款を変更しました。その内容は、Cの出資額を100から200に変更するというものです。しかし、Cは定款変更に反対しており、その内容を承諾していません。
さて、Cは100の追加出資を履行する義務を負うでしょうか。
大判大正7年10月29日は、こうした場合に、Cは変更後の定款の内容に拘束され、出資義務を負うものと判断したようです。理由としては、定款変更の要件は定款に規定されており、その拘束を受けることを、社員はあらかじめ承認しているというもののようです。
この判例に対し、神田秀樹編『会社法コンメンタール14』(商事法務、2014)57頁〔大杉謙一〕は、不利益を受ける社員の承認が必要だという見解を示しています。
たとえば、退社についても、総社員の同意による退社という制度がありますが、定款で、一定数(たとえば、過半数)の社員の同意で行うことを可能とする規定を設けることも可能です(注)。ただし、この場合であっても、退社する社員の意思に反して退社させることができるわけではないと解釈されています。意思に反して退社させる制度には、「除名」の制度があるため、前記の定款規定は、大雑把にいえば、あくまでも、退社する社員からの(予告期間を置かない等の)退社の申出に対する、他の社員の承認(あるいは、他の社員からの申出に対する退社対象の社員の承諾)だというように解釈されているからです。
そうすると、出資義務の増額についても同様に、対象となる社員の承諾が必要なようにも思えます。ただ、対象である社員が増額に納得できないため、退社してしまえば、定款の規定には拘束されず、出資義務も負わないでしょうから、そうした選択肢もある以上、その社員の同意や承認は不要であるという解釈もあるかもしれません。
そもそも、Cが納得しなければ出資は出資はしないでしょうし、定款で定めたとしても、その義務が履行されなければ意味がありません。実務上は、前記のような定款変更をする場合には、Cの同意も得たうえで行うのが一般的でしょう。そのため、通常は、こうした問題は生じないのだろうと思います。
むしろ、Cの意思に反して、あえてそうした定款変更をする場合、出資が履行されない可能性が高いことを承知の上で行うのでしょうから、なにか別の意図(出資義務の不履行による除名)等を意図している可能性もあるのかもしれません。
実際にそうした事案の相談を受けたらどうしたら、司法書士としては、どう対応したらよいでしょうか。想像したら、個人的には、とても悩ましく感じました。
注)ただし、この場合は「総社員の同意」(会社法607条1項2号)の要件を緩和したものではなく、「定款で定めた事由の発生」(会社法607条1項1号)の事由を定めた規定だと解釈されています。
立花宏 司法書士・行政書士事務所
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