前回、社員が複数の法人社員の場合には、個人的には定款には一般承継の規定を設けない方がよく、社員が合併して解散することになった時点で規定を設ければよいのではないかと書きました。もちろん、その会社の状況等によって決めるべきことであって、絶対に設けるべきではないということではありません。
法人社員が合併により解散する場合について、退社事由とする旨が規定されたのは平成18年の会社法によってです。会社法施行前の商法では、合資会社の有限責任社員については、法人社員も許容されており、その法人社員が合併により解散した場合は、存続会社(又は新設会社)が持分を承継して社員となると解釈されてきました。
しかし、持分会社が社員相互の信頼関係を基礎とした人的会社である以上、存続会社(又は新設会社)が当然に持分を承継して社員となるとすると、他の社員の利害関係に影響があります。そのため、会社法では、法人社員の解散を退社事由として、原則として持分の承継を認めず、あらかじめ定款で定めれば存続会社(又は新設会社)が持分を承継して社員となることを認めたのです(注)。
ところで、冒頭のような場合に合併による一般承継規定をあらかじめ定款に設けて置いた場合、将来、社員である法人がどういう法人と合併するのかがわからない状態で設けることがほとんどだと思います。つまり、合併の結果、どういう法人が社員となるのかわからない状態で設けることになります。
本来、合同会社等の持分会社においては、社員が誰(どういう法人)であるかは、他の社員に大きな利害関係があるはずです。そうすると、合併による一般承継を認める定款規定は、持分譲渡の際の他の社員の承諾(会社法585条1項)を、定款で事前に行っておくことと同じような意味合いだといえると思います。
よって、社員が合併による解散する場合、その相手方(存続会社)がどういう法人であるのかを他の社員が認識し、そのうえで定款規定を設けた方がよいのだと思います。
持分譲渡については、定款で他の社員の承諾を不要とすることもできますから、定款に合併による一般承継規定を設けることは、他の社員の承諾を不要としたものともといえるのかもしれません。つまり、法人社員は自由に他の法人と合併(により解散)することができるということです。
どちらの意図なのかは、会社(社員)がその定款規定をどのような趣旨で設けるのかによるのだろうと思います。
そのため、合併による一般承継を許容する規定を設ける場合には、どちらの意図であるのかを明確にして規定すべきなのだろうと思います。
たとえば、社員であるA社から、B社と合併し解散するという申し出があり、それを認めるために定款規定を設ける場合には、次のような感じでしょうか。
「第〇条(合併による持分の承継) A社がB社と合併し解散する場合には、B社はA社の持分を承継し、当社の社員となる」
なお、この定款規定は、合併後は不要になるでしょうから、併せて、附則に、「A社がB社と合併し、B社が持分を承継して当社の社員となった場合には、本定款第〇条(合併による持分の承継)の規定と本規定は将来に向かって削除されるものとし、以降の条項の条数番号が1条ずつ繰り上げるものとする」といった規定も設けておいた方がよりよいのかもしれません。
注)神田秀樹編『会社法コンメンタール14 持分会社【1】』(商事法務、2014)232頁以下(小出篤)
立花宏 司法書士・行政書士事務所
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