前回、前々回と、法人社員が合併により解散する場合の持分承継規定についてを書いてきました。
今回は、それを前提としたうえで、相続承継のことを検討します。
前回、合併による解散の場合に、原則として持分は承継されず、存続法人(新設法人)社員とならないのは、他の社員の利害関係に影響があるからで、その趣旨から、社員が同意しして、事前に定款で定めれば、持分を承継して社員となることも許容されるという内容をかきました。
これは、相続による承継の場合も同じです。合同会社とする持分会社は、社員相互の人的信頼関係を基礎とする民法の組合型の組織です。
そのため、誰が社員となるのかについて、社員は大きな利害関係を有するので、社員が死亡した場合には、原則として持分は相続人に承継されず、相続人は社員とはなりません。
ところで、「社員が死亡した場合、相続人は持分を承継して社員となる」という定款規定を設けた場合、それはどこまでが射程範囲なのでしょうか。
たとえば、遺産分割は遡及効がありますが、死亡した社員の相続人がABCの3人だとして、遺産分割によりAが持分を承継した場合には、Aのみが社員となるのでしょうか。
ご承知のとおり、これについては、従来の先例は否定し、ABCが社員となったあと、持分譲渡をすべきとしています。それに対し、合同会社の社員は全員が間接有限責任であることを理由に肯定する見解もあります(注1)。
また、死亡した社員が遺言書を残しており、遺言でAに持分を承継させるとしていた場合には、Aのみが社員となるという見解があります(注2)。
しかし、前記のとおり、合同会社とする持分会社は、社員相互の人的信頼関係を基礎としており、誰が社員となるのかについて、社員は大きな利害関係を有するはずです。前記の定款規定はそこまで許容しているのかは、会社(社員)が定款規定を定めた意図にもよるのだろうと思いますが、個人的には、一般的にはそうした部分までは許容していないと考えています。
というのは、たとえば、前記の相続人Aは、定款規定を設けた後に、死亡した社員が養子縁組したため、定款規定を設けた時点で他の社員が把握することはできなかった相続人であり、さらに、他の社員にとって好ましくない人物だったとしたらどうでしょうか。これは、他の社員にとって、想定外のはずです。
前回の合併による承継規定のところで記載したのと同様に、定款規定が、他の社員の関与を不要とする意図であるのであれば肯定できるのでしょうけれど、一般的にはそうではないと個人的には考えています。
定款規定には、持分の相続承継は認めるけれど、相続人のうち、誰が承継するのかについては、他の社員の意思も必要だという意味も含まれていると考えるべきだと思います。
そのため、仮に、前記のような遺言を残す場合には、他の社員に諮り、「社員〇が死亡した場合には、相続人Aが持分を承継して社員となる」等、明確な定款規定を設けるべきだと考えます。
そもそも、社員が複数の場合は、社員1名が死亡して退社しても、社員が欠けたことにより解散することはないので、相続承継規定を設けないという選択肢も有力ではないかと思っています。
この場合に、相続人が持分を承継させたい場合は、相続発生後、持分払戻手続をとらず、持分を承継する相続人との間で加入契約を締結すればよいのではないかと思います。この場合、死亡社員退社日と相続人の加入日が異なることにはなりますが、それ以外については、定款規定により持分を承継した場合とほとんど差はないと考えられるのではないかと思います(注3)。
注1)松井信憲『商業登記ハンドブック第4版』(商事法務、2021)565頁以下
注2)「商業・法人登記のアクセスポイント1」(登記研究767)130頁
注3)我妻榮『債権各論中巻二』(岩波書店、1962)830頁。持分の払戻しをしていませんから、死亡した社員の資本金、資本剰余金、利益剰余金は変動せず、そのまま引き継ぐのではないかと考えていますが、この点について解説している会計の本は見つけられていません。
立花宏 司法書士・行政書士事務所
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