帳簿上の持分が次の状況の合同会社であることを前提とします。
資本金 資本剰余金 利益剰余金 合計
A 100 0 25 125
B 100 0 75 175
この合同会社は、AとBが100ずつ出資して設立しました。損益の分配については、A :B = 1:3の割合とする旨の定款規定があります。設立後に決算を行い、100の損益(利益剰余金)が計上され、上記のとおりの持分の状況だという前提です。
この合同会社が解散し、清算手続を行った結果、残余財産は280となりました(結局、20の損失が生じていたということになります)。AとBには、それぞれいくらを払い戻すのが妥当でしょうか。
持分の払戻しについて、特に規定がないとすると、出資の価額にに応じて計算することになりますから(会社法666条)、それぞれ140を払い戻すということになりそうです。しかし、これは妥当でしょうか。
少なくとも、すでに分配された損益については、それぞれの持分として計算するのが妥当なようにも思えます。解散前であれば、社員としてはいつでも利益の配当として請求することができたはずだからです。
では、どのように計算するのが妥当でしょうか。簿価持分(出資部分(資本金+資本剰余金)+利益剰余金)を基礎として、簿価持分(社員資本)全体と残余財産との差額マイナス20については、出資の価額に応じて分配する(各社員の負担とする)というのがひとつの考え方としてありそうです。
しかし、マイナス20については、結局のところ、簿価計算では反映されていなかった未実現の損失だったとして、損益の分配の割合で配分し、AとBの簿価持分から、それぞれ、5と15をマイナスするというのが妥当なようにも思えます。
いろいろと調べてみると、この点について、民法上の組合についてのものですが、関連する記載がある文献を見つけましたので、ご紹介します。我妻栄『債権各論中巻二(民法講義V3)』(岩波書店、1962)の848頁です。
引用すると、「組合財産とは、組合財産をもって組合債務を弁済した残りの財産である。出資を償還した残りではない(略)。ドイツ民法は、まず、組合債務を弁済し、ついで出資を償還し、その上で残るものを残余財産とする。そして、組合債務を弁済した残りが出資の償還に不足の時は、損失分配の割合でこれを補填すべきものと定める(略)。従って、損失分配と残余財産の分配の割合が異なるときは、わが民法と差異を生ずる。」
組合の記載なので、分配済の損益については、既に各社員に配当されたものとして計算している前提なのだと思います。個人的には、前記のとおり、持分会社の場合も同じように、配当済みとして計算すべきだと考えています。
その前提でこの文献の記載をみてみると、私の考え方は、(当時の?)ドイツ民法と同様の考え方ですが、日本の法律では、前記のマイナス20については、出資の価額に応じて分配されるということになるのかもしれません。
少なくとも、会社法においても、同様の考え方なのでしょうから、前記のマイナス20について、残余財産の分配の計算をする際は、出資の価額に応じて計算し、各社員に分配される(各社員の負担となる)ということになりそうです。
個人的には、少し疑問を感じますが、定款自治が認められているのですから、損益の分配の割合により計算をしたい場合には、定款に定めておくのが安全なのだと思います。
もっとも、総社員が同意するのであれば、事前ではなく、残余財産の分配の際に定めることも可能でしょうから、実務上はそれほど問題は生じないのかもしれません。
立花宏 司法書士・行政書士事務所
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