今回は、現物出資された財産についての払戻しの請求があった場合のお話です。
たとえば、出資時の価額が100万円の建物を現物出資していた社員から当該建物の払戻しを受けた場合です。出資時には、100万円全額を資本剰余金に計上していたものとします。
この場合、定款の当該社員の出資の目的及びその価額から当該現物出資財産についての部分を削除し、当該建物を払い戻しすることになります。
なお、この建物については、帳簿上、減価償却が行われ、簿価が10万円となっていたとします(注1)。建物を払い戻すと、簿価10万円の資産の払戻しとなりますから、当該社員の資本剰余金から10万円を減少することになります。
仕訳
資本剰余金 10万円 建物 10万円
ところで、この建物の出資時にこの建物について計上されているのは資本剰余金100万円です。差額の90万円はどのように考えればよいのでしょうか。
この点について、この90万円相当については利益剰余金に振り替えるという処理と、そのまま当該社員の出資について資本剰余金として計上し続けるという処理があり得るという解説をしている文献を見つけることができました(注2)。
ただ、個人的には、利益剰余金に振り替える処理の方がわかりやすいのではないかと思いました。
というのは、たとえば、この建物について、10万円を減価償却した際、建物から10万円を減少し、その相手勘定として、減価償却費を計上していたでしょう。その減価償却費はその期の損益計算上の費用となり、その事業年度の損益に影響していたはずです。つまり、他の社員が受けた利益の配当のマイナス要素になったということです。
そう考えると、今回のケースでは、90万円は利益剰余金に振り替え、他の社員の受けるべき損益の分配のプラス要素にすると考えるのが素直なように感じるからです。
比較として、建物自体ではなく、金銭で払い戻す場合は、100万円を払い戻すはずで、その場合は、当該社員の資本剰余金から100万円を減少させるはずですから(注3)、それと比較しても、当該社員に当該現物出資分だった資本剰余金90万円が残り続けるというのは、個人的には落ち着きが悪いように思いました。
もし、資本剰余金として計上し続けた場合、最終的にどのような処理にするのかは調べきれておらず、個人的に相談を受けた場合には、この処理ではない利益剰余金に振り替えるの方法をお勧めするだろうと思いました。
注1)減価償却には直接法と間接法があると思いますが、今回は直接法を想定していただければと存じます。
注2)神田秀樹編『会社法コンメンタール15 持分会社【2】』(商事法務、2018)〔伊藤靖史〕
注3)郡谷大輔・細川充「持分会社の計算」(『別冊商事法務No.300 立案担当者による新会社法関係法務省令の解説』(商事法務、2006)162頁)
立花宏 司法書士・行政書士事務所
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