先日、ある会社の方から以下のような相談を受けました。
「合資会社の無限責任社員が死亡した。定款には、社員が死亡した場合の持分承継規定はない。相続人は持分を相続しないのだから、死亡前の会社債務も相続しないということでよいか。」
もちろん、そんなことはありません。相続人は、被相続人が死亡して退社する前に生じた合資会社の債務を、従前の責任の範囲内で弁済する責任を負います。
死亡した無限責任社員の相続人は、持分を承継して社員となることはありませんが、持分払戻請求権を相続しますから、会社債務についての責任は相続しないということにはならないと思います。
ちなみに、社員の死亡前ではなく、死亡後、退社の登記前に会社に生じた債務についての責任については、異なる見解があるようです。
判例(大判昭和10年3月9日)は、この債務については、相続人は責任を負わないと判示したそうです。責任を負うには、その債務の発生当時にその者が生存していることを必要とすることや、相続人が相続開始後に会社に生じた債務の弁済責任を承継する理由がないという理由のようです。
それに対し、ほとんどの学説は、相続人は前記債務の弁済責任を負うと解釈してるようです。退社後退社の登記前の会社債務の弁済責任を負うという会社法の規定は、債権者保護のためであり、その必要性は、他の退社事由の場合と違いはないという理由や、死亡退社の場合、相続人は、退社した社員として有すべき地位を承継すると考えるべきだという理由だそうです。
後者は、相続人は、社員とはならないけれど、退社した社員の相続人は、社員としての権利義務を承継(?)するというイメージでしょうか。ただ、そうすると、相続人は、その間は、社員とはなっていないけれど、会社の運営に意思表示ができるとも考えられそうで、ちょっと悩ましい部分もあるかな、という気もします。
債権者保護から考えれば、責任を負うという考え方に合理性はありそうですが、社員の相続人が会社に対し、死亡した旨の届出等をした場合は、会社が死亡の登記を申請すべき義務を負いますから、少なくとも、それを履行しないような場合にまで相続人に責任を負わせる必要はないのだろうという気がいたしました。それに、責任も負うのであれば、死亡後、退社の登記前に生じた利益の分配も受けることができるのが公平なような気がしますが、そんなことはないでしょう。
深く考えたわけではないのですが、とある質問から、そんなことをざっくりと考えてみました。
参考文献:神田秀樹『会社法コンメンタール14 持分会社(1)』(商事法務、2014)273頁
立花宏 司法書士・行政書士事務所
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