過去に社員が100万円の金銭債権を現物出資(増資)した合同会社であることを前提とします。定款にはこの社員の出資の目的及びその価額として、何某に対する「金銭債権100万円 その価額100万円」と記載されているとします。
その後、当該金銭債権の債務者が合同会社に対し、金銭債務を弁済し、当該債権は消滅しました。
そういう状態である合同会社であることを前提に、この社員が金銭債権部分の出資の払戻しを請求したいと考えました。
さて、この場合はどのように考えたらよいでしょうか。
金銭債権はすでに弁済されていますので、この金銭債権を払い戻すことはできません。
では、この社員はこの金銭債権の出資について、出資の払戻しを請求することができないかというと、そうではありません。会社法624条には、、出資が金銭以外の財産であるときは、当該財産の価額に相当する金銭の払戻しを請求することを妨げない旨が規定されており、当該社員は、金銭債権の払戻しは受けられませんが、この規定に基づき、 金銭の払戻しを請求することになります(注)。
次に、会社にはもう、その金銭債権という財産が存在しないのに、定款に当該社員の出資目的としてその金銭債権が記載されていることは問題ないでしょうか。
まず、これが合名会社や合資会社であれば、定款に記載された出資の目的のうち、未履行のものについては、社員が会社に対して出資義務を負っているということ意味する記載だといえます。
それに対し、持分会社において出資済みの財産についての定款の記載は、過去の出資の事実(履行済みの出資義務)を記載だといえます。現実に会社に存在している財産の記載ではありませんし、前記の金銭債権のように弁済により消滅していたとしても、定款に記載されていることは問題がないと考えます。
というよりも、その社員が過去に100万円の金銭債権を現物出資したという過去の事実を記載したものなので、その事実はなくなりませんし、当該社員が退社したり、当該金銭債権全額相当分の出資の払戻しをしない限り、その記載は抹消や変更はできないのではないかと思いました(このあたりは、あまり深く検討したわけではないので、今後の研究課題としたいと思います。)。
注)神田秀樹『会社法コンメンタール14持分会社【1】』82頁(商事法務、2014)
立花宏 司法書士・行政書士事務所
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