前回に引き続き、テーマは「目的」です。
1.「目的」の具体性
かつては、目的は、その事業内容を具体的に記載しなければならないとされていました。法人の目的が登記事項とされているのは、これにより法人の権利能力の範囲を明確ならしめるためだからというのが理由です(注1)。
しかし、平成18年の会社法施行から、この解釈が変更され、会社の目的の具体性については登記官の審査の対象ではなくなりました(注2)。①会社法の制定に伴い類似商号規制が廃止された、②会社の権利能力の範囲を決する「目的の範囲内の行為」という基準は、定款に明示された目的に限られず、その目的を達成する上で直接又は関節に必要な行為であればすべてこれに包含される、③具体性がない目的が定められ、公示されることに伴う不利益があったとしても、当該不利益は当該会社の構成員や当該会社を取引相手とした利害関係人が自ら負担すべきものと解することで足りる、ということがその理由だとされています(注3)。
会社の目的には、一般的に、「その他前各号に附帯又は関連する一切の事業」といった内容を規定することが多かったでしょうから、会社法制定前であっても、権利能力の範囲を決する基準としてどのくらい機能していたのかどうかは、個人的には少し疑問を感じるところです。
なお、登記官の審査の対象とはならなくなったとしても、会社の事業目的に具体性がなくてもよいのかどうかというと、そうとも言い切れないと思います。
会社法施行時の通達でも、登記官の審査の対象ではなくなったとしていますが、どの程度具体的に定めるかは会社が自ら判断すべきことだとしています。まったく具体性のない目的(事業)を定めてしまうと、登記事項証明書等を見ても、その会社がなにをしている会社なのかが読み取れませんから、第三者がどのようにそれを判断するのか、そうした不利益もあると思われます。
また、行政庁から許認可等を受けようとする場合は、登記された事業目的から、その事業を行うことが読み取れることが必要な場合が多いと思います。
通達が言っているのは、登記官の審査ではなくなったというだけですから、もし、司法書士が関与して定款案を作成する場合には、具体性のある目的を定めることが望ましいのだろうと思います。
注1)民法法人に関するものとして、昭和28年10月15日1897号民事局長通達
注2)平成18年3月31日民商782号通達
注3)松井信憲『商業登記ハンドブック第5版』(商事法務)9頁
立花宏 司法書士・行政書士事務所
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