社員が1人のみの合同会社において、当該社員と合同会社が取引(たとえば、不動産売買)を行う場合、不動産登記の場面では、どのような検討が必要でしょうか。
この場合、形式的には、会社法595条1項1号の利益相反取引に該当することになりそうです。そうだとすると、「当該取引について当該社員以外の社員の過半数の承認をうけなければならない」という会社法の規定がありますから、その承認が必要ということになります。しかし、社員が1人のみですから、承認を受けるべき他の社員が不在です。
この場合、どのように考えればよいでしょうか。
これについて、利益相反取引については、定款に別段の定めを設けることが可能ですから、定款に、承認を受けることを排除する規定(承認を不要とする規定)を設ける必要があるという見解があります(注1)。
しかし、社員が1人のみである合同会社の場合は、会社の営業は実質上、当該社員の個人経営のものにすぎず、両者の間には実質的な利益相反関係はないといえるでしょう。そのため、承認は不要だと考えます。
参考までに、株式会社の事例についての見解ですが、100%親子関係のある会社間での外形上利益相反取引の形態があっても、利益は相反しておらず、承認は不要とするものがあります(注2)。この場合は、株主が1人のみであることを証する株主名簿等を添付すれば足りると扱われているようです。具体的には、100%親子会社間であることの証明書と、そのことを証する株主名簿に、取締役全員が実印(印鑑提出をしている代表取締役は当該印鑑)と印鑑証明書等が必要になるようです。
合同会社の社員が1人のみの場合も同様に、不動産登記の場面においては、そのことを証する書面、具体的には、社員が1人であることを証するために、定款を添付すればたりると考えます(もちろん、前記の承認を受けることを排除する規定は不要です)。今回のケースは社員が1人しかいませんし、当該(代表)社員は印鑑提出をしていることがほとんどでしょうから、当該定款に届出印を押印すれば足りると考えます。
ただし、社員が1人のみであれば定款変更も容易ですから、不動産登記の審査をスムーズにするために、承認を受けることを排除する規定を設けてしまうことも検討できるのかもしれません。
注1)東京法務局民事行政部不動産登記部門監修「相談事例 合同会社の利益相反取引について」(登記インターネット88号88頁(民事法情報センター、2007)
注2)東京法務局民事行政部不動産登記部門監修「相談事例 いわゆる100%親子会社間における取引に係る不動産登記手続について」(登記インターネット3巻11号204頁(民事法情報センター、2001)
立花宏 司法書士・行政書士事務所
〒980-0022022-302-6906
Powered by Webnode